M&Aは、企業の成長や市場競争力を高めるための重要な手段の一つです。
この記事では、M&Aの基本的な概念や目的、メリット・デメリットをわかりやすく解説します。また、M&A業界の将来性についても紹介しているので、M&A仲介業界への就職・転職を考えている方は参考にしてください。
- M&Aの意味と目的
- M&Aの流れ
- M&Aのメリット・デメリット
- M&Aの今後の動向
M&Aとは
M&Aとは、「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の頭文字をとった略です。
狭義のM&Aは、主に企業の合併と買収を指します。企業経営戦略の一部として、市場競争力を高めたり、成長戦略を実行したりするために行われます。
広義のM&Aは、企業の合併や買収だけでなく、さまざまな経済的な取引や組織の再編を含む経営戦略全般を指します。具体的には、株式の取得や資産の売却・譲渡、合弁事業の設立などです。
M&Aの目的
M&Aの目的は、譲渡企業と譲受企業で異なります。
譲渡企業の目的
譲渡側がM&Aを行う目的として、以下の3つが挙げられます。
- 後継者・事業承継問題の解決
- 創業者利益の獲得
- 事業の整理
後継者・事業承継問題の解決
M&Aを行うことで、後継者未定問題や事業承継問題の解決が可能です。
多くの中小企業では、後継者未定の問題が深刻化しています。
中小企業庁によると、2025年までに平均引退年齢の70歳を超える中小企業または小規模事業者の経営者は約245万人で、そのうち約半数の127万人(日本企業全体の1/3)が後継者未定です。現状を放置すると、廃業する企業や事業者が急増し、2025年までの累計で約650万人の雇用および約22兆円のGDPが失われる可能性があると試算しています。
第三者に事業を承継することで後継者問題は解決でき、企業や事業は存続が可能となります。
出典:中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」
創業者利益の獲得
創業者はM&Aで自身が保有する株式を売却することにより、多額の資金を得られる可能性があります。
2021年6月時点の日本の企業数は368万企業で、そのうち上場しているのは3,942社(約0.1%)です。大多数は非上場企業のため、市場で株を売却して創業者利益を得ることができません。IPO(株式公開)をすることで創業者利益を得ることも可能ですが、そもそも要件が厳しく、上場が難しいのが現状です。
しかし、M&Aを行えばIPOをするよりも容易に創業者利益を得られます。創業者利益を得られれば、アーリーリタイアや負債精算、新規事業などを行うことが可能です。
出典:
統計局「我が国の事業所・企業の経済活動の状況」
日本取引所「上場会社数・上場株式数」
事業の整理・経営資源の最適化
事業の整理および経営資源の最適化を目的として、M&Aを行う場合もあります。
幅広く事業を展開していると、なかには利益が出にくかったり伸び悩んだりする事業もあるでしょう。そういった事業を売却することで、利益が出る事業に資源を集中させることができます。また、売却した事業に携わっていた人員を注力事業に集めることで、さらなる業務拡大を図ることも可能です。
譲受企業の目的
譲受側がM&Aを行う目的として、以下の3つが挙げられます。
- 事業拡大・強化
- 新規事業への参入
- 優秀な人材の確保
事業拡大・強化
事業拡大や強化を目的として、同業他社を買収します。
自社にはない技術や顧客を取り入れたり、ノウハウをもつ人材を譲り受けたりすることで、既存事業の強化が可能です。また、マーケットシェアの拡大も目指せます。
新規事業への参入
新規事業への参入を目的として、M&Aを活用する場合もあります。
新規事業の立ち上げには技術やノウハウの習得が必要不可欠なうえ、時間やコストが掛かります。また、市場へ参入しても、シェアを獲得できるとは限りません。
その点、M&Aですでに事業を展開している譲渡企業の技術やノウハウ、顧客を得られれば、効率的でリスクは少ないといえます。
優秀な人材の確保
上記でも少し触れましたが、優秀な人材を得ることも、M&Aの目的の一つです。
日本では少子高齢化による労働人口の減少が問題になっており、それに伴い優秀な人材の確保が難しくなっています。新卒採用で人材を確保することも可能ですが、育成に時間が掛かります。また、即戦力としての活躍が期待できる中途採用でも、自社の事業にマッチするかは未知数です。
その点、M&Aで成果を出している人員をチームごと獲得できれば、効率的に成果に繋げられるでしょう。
M&A仲介については以下の記事で詳しく解説しています。
M&Aの流れ
ここでは、基本的なM&Aの流れを準備フェーズ・交渉フェーズ・最終契約フェーズに分けて紹介します。
準備フェーズ
M&Aの相談・検討
M&Aを行う目的を明確にし、自社にとってM&Aが的確な選択かを考えます。
そのうえで、自社の経営状況や純資産、負債などの状況把握を実施。あわせて、譲れない条件の洗い出しや条件の優先順位付けを行います。
秘密保持契約・アドバイザリー契約の締結
本格的に交渉を始める前に、M&A仲介企業と秘密保持契約およびアドバイザリー契約を締結します。
交渉フェーズ
企業価値評価の実施
譲渡企業の株式価値評価を実施します。企業価値の評価方法には、譲渡企業の純資産価値に焦点を当てたコストアプローチ法、将来見込まれる収益に着目したインカムアプローチ法、市場取引の観点から評価するマーケットアプローチ法などがあります。
ノンネームシート・企業概要資料の準備
M&Aアドバイザーが、ノンネームシートと呼ばれる、会社が特定されない範囲の情報(業種、地域、従業員数、財務データなど)が記載された資料を準備します。譲受企業は、ノンネームシートの情報をもとにM&Aの検討を始めます。
譲受企業がノンネームシートによって譲渡企業に関心を持った際は、さらに詳細な情報が記載された企業概要資料が開示されます。
トップ面談
M&Aを検討したい企業が3〜4社ほど見つかったら、トップ面談を行います。トップ面談は、両者の経営ビジョンや事業内容への理解を深めるのが目的です。そのため、譲渡価格といった条件交渉は行いません。
基本合意の締結
M&A契約を進める企業が決まったら、基本合意書を締結します。
デューデリジェンスの実施
基本合意を締結したら、譲受企業が譲渡企業に対して、財務、法務、人事、ITといったさまざまな視点から調査を行うデューデリジェンスを実施します。
最終契約フェーズ
最終条件の交渉
最終契約に向けた交渉を実施します。話し合いになるのは、主に以下の4点です。
- M&Aの方法として、どのスキームがベストか
- クロージングにむけた売却側の義務について
- クロージング後の売却側・買収側の義務について
- 譲渡価格について
最終契約の締結
最終条件の交渉がまとまったら、最終契約書を締結します。
クロージング
最終契約書をもとに、経営権を移転します。クロージングをもって、M&Aは完了です。
M&Aのメリット・デメリット
M&Aによって享受できるメリット・デメリットは以下の通りです。
譲渡企業のメリット | 譲受企業のメリット |
---|---|
・従業員の雇用を守れる・後継者問題を解決できる・技術やノウハウが承継される・事業継続、会社の存続が叶う | ・効率良く事業強化または拡大ができる・優秀な人材を得られる・新規事業へ参入できる |
譲渡企業のデメリット | 譲受企業のデメリット |
---|---|
・優秀な人材が流出する・想定していた相乗効果が得られない・取引先からの信用が低下する可能性がある | ・想定していた相乗効果が得られない・組織再編がスムーズにいかない・簿外債務が発覚するリスクがある |
M&Aは会社存続や事業拡大、収益アップを求めて行います。しかし、M&Aを行ったことで起こるデメリットも存在するのです。
M&Aは年々増加傾向にある
中小企業庁「第2節 M&Aを通じた経営資源の有効活用」によると、M&Aの件数は増加傾向にあります。2000年は1,635件でしたが、2019年には4,000件を超えています。事業引継ぎ支援センターの相談社数と成約件数も右肩上がりです。
また、M&Aに対するイメージも変化しています。
同資料によると、買収と売却(譲渡)のどちらに関しても、10年前と比較して「プラスのイメージになった」が「マイナスのイメージになった」を大きく上回っており、M&Aに対するイメージが向上してきていることが伺えます。
少子高齢化による労働人口不足や後継者不足が深刻化している日本では、今後さらにM&A件数は増加すると予想されます。それに伴い、M&Aアドバイザーの需要も高くなるでしょう。
出典:中小企業庁「第2節 M&Aを通じた経営資源の有効活用」
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