「キャリアを考えることは、価値観を定義すること」Kyash鷹取代表へのインタビュー

金融業界出身の企業経営者や、M&A仲介、プライベート・エクイティ(PE)、コンサル業界などで活躍する方々に、これまでの道のりや成功の秘訣を聞くインタビュー。
今回は、スマホで買い物や割り勘ができるウォレットアプリを提供する、Kyash(東京都港区)の鷹取真一代表取締役CEO。大手銀行を経て、起業に至るまでの経緯などについて語ってもらいました。(敬称略)

鷹取 真一|Shinichi Takatori

Kyash
代表取締役CEO

早稲田大学国際教養学部卒業後、三井住友銀行に入行。 法人営業を経て、経営企画にて海外拠点設立、金融機関との提携戦略の担当として国内外の銀行モデルを研究。その後、米系戦略コンサルファームの日米拠点にてB2C向け新規事業に携わる。次世代の通貨を構想し、株式会社Kyashを創業。一般社団法人FinTech協会の理事。

Kyash 代表取締役CEO 鷹取 真一様ご経歴

銀行に5年勤められた後、コンサルティング会社を経て起業されましたが、もともと独立を意識されていたのでしょうか。

鷹取氏:最初から起業や独立を考えていたわけではありません。もともと30歳になるまでに、「人生をこの仕事にかける」というものに出会っていたいと思っていました。

事業を創出する側になりたいという思いがあり、銀行の法人営業ならビジネスにたくさん触れられる環境にあるだろうと考えました。どこの銀行に入りたいというよりは、銀行の法人営業に入りたいという感じでしたね。

現在、スマートフォンで割り勘や買い物ができるサービスを提供されていますが、今後の方向性についてはどうお考えですか。

鷹取氏:今はアプリという形でサービスを提供していますが、テクノロジーの発展によってサービスの接点は変化していくと考えています。

例えば音声で操作できるスマートスピーカーのように、いろいろな家電製品やデジタルツールとつながり「〇〇さんに1,000円送っておいて」と話かけるとKyashから送金するようなことも起きてくると思います。

世の中の流れに応じて、より価値の移動を滑らかに、しかも低コストで実現できる新しい口座をつくっていくことを目指します。

プロダクトやテックに触れる

銀行に勤めている時は、どういうモチベーションで仕事をされていましたか。

鷹取:入行1、2年目に法人営業部で営業をしている頃は、「お客さんに対してなんとかビジネスの力添えができないか」ということを考えていました。今振り返ると、(銀行の収益に直結する行動ではないため)上司に怒られないぎりぎりのラインでどうやるのか、というところを攻めていた気はします。

入社3年目に配属された本社の経営企画時代、海外拠点の設立や金融機関との提携戦略を担当していました。そこで銀行という存在の社会性を強く感じました。例えば、アジア諸国に銀行拠点を設立し、橋や高速道路を建設するための融資を実行してその国の発展に貢献するという諸先輩の志には尊さを感じました。

本社の企画も優秀な方が多く、素晴らしい出逢いも数多くありました。一方で、「早くからプロダクトやテクノロジーに触れたい」という思いはありました。

スタートアップを盛り上げる

当時、勤務時間外を利用して、社外の人たちとも交流をされていたと聞いています。どのような活動をされていたのですか。

鷹取氏:入社3年目の頃、仲間内で週末わいわいと集まっていたら、たまたまファンドで働いている友人の「日本の企業をより魅力的にするには、どうしたらいいか」という一言がきっかけとなり、友人たちとスタートアップを盛り上げていくための一般社団法人を設立しました。

そこで大企業でくすぶっている若手社員を300人くらい招待して、在籍していた企業でも活躍していたにもかかわらず、その環境を捨てて起業した人たちに話を聞く、というイベントを開催しました。年に1回ごとの開催しかできませんでしたが、スタートアップのピッチイベントもやりました。

経営者となられた今、金融機関での経験で役に立ったことがあれば教えて下さい。

鷹取:銀行マンは石橋をたたいて渡るではないけれど、ミスが許されない環境であったが故に、どうしても慎重にならざるを得ないところがあります。

一方でいいところは「この人はお金を持って逃げることはないだろうな」と信頼感を感じてもらえるところではないでしょうか。相手から見れば、お金の大切さやお金を受け取ることの意義については、よく分かっているだろうと。

さらに財務3表を理解しているところも強みだと思います。私は、銀行側として黒字倒産というものを目の当たりにし、PL(損益計算書)上は優良だけれども、キャッシュフロー(CF)が回らなくなるような例も実際にありました。

スタートアップの場合、資金調達をして今まで扱ったことのない規模のお金が口座に振り込まれて、どう使ったらいいか分からなくなり、キャッシュフローを気にせずに資金を使い、「口座にもう残高がない」という事態も起こりえます。ベースのファイナンス知識というのは起業して生きると思います。

自分がどうありたいのかを問う

20代の金融パーソン向けに、「今のうちにこういう働き方をしておけばよいのではないか」、というアドバイスがあれば教えて下さい

鷹取氏:「自分がどういう仕事をしていたら幸せなのか」を定義することではないでしょうか。仕事の内容、立場、経済的なものなどいろいろある中で、何をもって充実していると定義できるのか。「自分はどうありたいのか」ということを、問うてみる。

そこから今自分が何をすべきかが見えてくるかと思います。今の会社に意志のある残り方をするというのであれば、それで構わないと思います。納得して、そこにいることが大事だということです。

金融機関での働き方について言うと、早くからプロダクトやテクノロジーに触れて事業を作っていく方向に入っていけると、5年、10年後によりキャリアを広げられている可能性はあると思います。

ーキャリアを考える上では、自分の中で価値観を定義してみることが大切だということですね。今日はどうもありがとうございました。
(聞き手=堀江大介)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!