企業買収のスペシャリスト&プロ経営者が語る事業承継のリアル〜昨今の事業承継問題とプロ経営者の潜在的な需要〜【イベントアーカイブ】

※こちらは2020年7月14日に視聴希望者限定で行われたイベントのアーカイブ記事です。

日本プロ経営者協会(JPCA)は、日本に数多くのプロ経営者を輩出するエコシステムを構築し、わが国を牽引するリーダーの輩出と事業承継問題の解決を目指し設立されました。

日本企業の「3社に2社は後継者がいない」とされ、2015年に約403万社あった企業数は、2025年には320万社まで落ち込むという研究結果があります。
この状況に加え、2020年新型コロナによる影響で日本の事業承継問題はさらに深刻化しており、政府は中小事業承継支援策として総額100億円の補正予算を投下して、新たな補助金制度や全国ファンドの創設などを推進しています。

当イベントでは、日本が抱える慢性的かつ危急の事業承継問題について、プロ経営者の潜在的な需要と活躍するチャンスに焦点を当て、プロ経営者・ファンドマネージャー・M&Aの専門家をお招きしてパネルディスカッションを行いました。

目次

ダイジェスト動画(音声あり)

※後日公開

イントロダクション、登壇者紹介

堀江

本日は一般社団法人日本プロ経営者協会の2回目のイベントということで、業界を代表する有識者の皆さんにお集まりいただきました。

「企業買収のスペシャリスト&プロ経営者が語る事業承継のリアル〜昨今の事業承継問題とプロ経営者の潜在的な需要」をテーマとして、プロ経営者を活用した事業承継問題の解決といった論点についてディスカッションしたいと思います。

私はモデレーターを務めさせていただきます、ヤマトヒューマンキャピタル株式会社 代表取締役・一般社団法人日本プロ経営者協会 代表理事の堀江大介と申します。本日はよろしくお願いします。

まずは本日ご登壇いただく皆さん、自己紹介をお願いします。簡単なプロフィールに加えて、これまで関わった案件で事業承継や事業投資、プロ経営者に関わるものがあれば、そのあたりに少し触れながらお話しいただければと思います。では、福谷さんからよろしくお願いいたします。

福谷 尚久:PwCアドバイザリー合同会社 パートナーの福谷と申します。M&Aという言葉を名刺に書くことすら難しかった90年代前半から今日に至るまで、M&Aのアドバイザーをやっています。国際連合に勤務した後、三井銀行(現・三井住友銀行)に入行し、事業開発部でM&Aに携わったのを皮切りに、ニューヨークやシンガポールなど、海外でも6、7年にわたってM&Aに関わりました。その後、GCA株式会社の立ち上げから関わり、マネージングディレクターとして中国現法の董事長やインド現地法人の取締役を歴任しつつ、海外のクロスボーダー等を手掛けました。2015年にPwCアドバイザリー合同会社に移り、現在はM&Aチームを統括しています。

事業承継と最も密接に関わっていたのは90年代で、数多くの案件を手掛けました。その後は大規模な案件、クロスボーダーの案件に携わることが増えましたが、今でもかなりのボリューム、サイズの事業承継案件をハンドリングしています。そういった側面からもお話しできればと思っています。本日はよろしくお願いします。

堀江

福谷さんは昨年、中央経済社さんから『会社の終活』という事業承継関連の書籍を出版されております。投資銀行畑で現在PwCのFA部門のパートナーであられる福谷さんからどのような事業承継型M&Aのお話がでるのか非常に楽しみです。
続いては市川さん、よろしくお願いします。

市川 雄介:アドバンテッジパートナーズ株式会社 パートナーの市川です。よろしくお願いします。「日本の産業界にリスクマネーを供給するぞ」と意気込んで、1998年に新卒で日本興業銀行に入行したのですが、資金を回収しないと銀行が潰れてしまうという時期で、ほぼ融資には携わらず、デリバティブのチームにおりました。その後、M&Aの部署に移ったときにPEファンド業界の存在を知り、2003年にアドバンテッジパートナーズに参画。現在17年目になります。

アドバンテッジパートナーズでは約10社を担当しておりまして、事業再生や成長支援、業界再編など、さまざまなアングルで投資を実行してきました。事業再生に関しては旧カネボウが粉飾事件を起こして上場廃止になった後、クラシエとして再生する過程をお手伝いしたり、メガネスーパーが7期連続赤字の後、上場を維持しながらの再生プロセスをお手伝いしたりしました。成長支援としては、フィンテックやPRマーケティング等の分野で、年率20〜30%成長しているネットプロテクションズやマテリアルグループの支援をしています。業界再編に関しては、日本の食塩の工場6つのうち3つを糾合して設立した日本海水、それから、日本の銘菓・名産品のプラットフォームをつくることを目指す日本銘菓総本舗の支援などに取り組んできました。

現在の仕事の特徴については、ゲームのイメージを借りながらご説明したいと思います。M&Aは、会社を買収して自力をつけた上で、ほかの会社を糾合して大きくする『信長の野望』型の仕事だと言われることが少なくありませんが、私個人としてはこうしたイメージは持っていません。むしろ、自分のビジョンに共感してくれる人を増やすことによって、力を増していく『維新の嵐』型だと考えています。実際、ファンドが業界再編を加速させようと思っても、共感してくれるプロ経営者、プロパーの社員がいなければ独りよがりになってしまいます。共有できるビジョンをつくって共感の輪を広げるとともに、経営者からインプットをもらい、議論しながら、ビジョンそのものもアップデートしていく。維新の嵐も相手の思想に説得されてしまう事もあるので、その点も似ています。

経験の特徴としては、若い頃にたくさんの失敗をしたこと、“タダでは転ばない”の精神で、失敗から学びながら、ソーシングやバリューアップの仕事に生かしていることを挙げておきたいと思います。また、特徴的な経歴としては、メガネスーパーに投資した際に、社内の財務戦略担当取締役として資金調達や資本政策、IRコミュニケーションでのヘッジファンドを含めた投資家との面談等に取り組んだことがあります。経営者がどういう気持ちで働いているかといったことについて、ある程度は理解した上でPEファンドの業務を行なっております。以上です。

堀江

市川さんは事業承継案件の対応もされているんですか。

市川氏:そうですね。直近では確実に増えていますよ。最近、事例として挙げた日本銘菓総本舗という会社は、栃木県那須高原にあるチーズケーキの会社の事業承継からスタートしています。また、外食ではつけ麺のつじ田、天丼の金子半之助に投資を行なったときは、30代の創業者からの事業承継として投資を行いました。PR事業を展開するマテリアルグループへの投資に関しても、「他社の商品をPRするのではなく、自社の商品を売っていきたい」という30代後半のオーナーの希望を受け、PR事業のヘッドを後継者とする事業承継を支援しました。

堀江

アドバンテッジパートナーズさんというと、大きな案件を手掛けられている印象がありますが、投資先は意外と幅広いんですね。

市川氏:成長企業、あるいは、自分たちが触媒となって成長できると思ったら、規模にはそれほど囚われることなく投資をしています。

堀江

ありがとうございました。続いて大山さん、よろしいでしょうか。

大山 竜吾氏:株式会社CSS技術開発 代表取締役の大山と申します。私は公認会計士からキャリアをスタートさせました。当時はネットバブルなどもあり上場支援だと意気込んでいたのですが、「金融再生プログラム」の影響を受けて事業再生ブームが到来し、株式会社産業再生機構さんやメガバンクさんの財務デューディリジェンスを担当する機会が増えてきました。その中でPEファンド業界や、ターンアラウンドマネージャーという仕事の存在を知り、自分もやってみたいと思ったんですね。これが現在のキャリアの原点です。

フェニックス・キャピタル株式会社という再生型PEファンドに転職し、ターンアラウンド投資の担当として、小売りから建設まで、さまざまな業界の再生投資を経験しました。その後、2015年にフェニックス・キャピタルを退職するタイミングで、今日ご登壇されている小野さんから、CSS技術開発の後継社長をやらないかということでお声掛けをいただき、プロ経営者として参画した次第です。2016年1月に社長に就任し、5年目になります。この間、当社の大株主は創業者からPEファンド2社、2019年にイグジットした後は、東証一部上場で土木建設機械の販売・レンタル事業等を展開する株式会社ワキタさんへと変化。5年間で4社の大株主とお付き合いさせていただきながら経営を行ってきました。

現在のCSS技術開発での仕事の特徴について、少し触れておきたいと思います。事業承継以前は創業者色の強いトップダウン企業といいますか、オーナーのワンマン会社だったのですが、株主が変わる中でボトムアップにしなければ持ちこたえられないということで、従業員参加型の組織への変革を進めました。2019年にワキタさんの子会社になった後は、親会社とのシナジー創出に向けた施策と同時に、自律組織化を進めています。事業会社の傘下で経営するのは私にとって初めての経験ですが、とても面白く、やりがいのあるチャレンジだと思っています。

堀江

大山さんの社長就任当時と現在を比較すると、売上はどれくらい伸びましたか。

大山氏:2015年は従業員65人で売上7億円弱だったのが、直近では従業員130人で売上13億弱ですから、ほぼ倍になりました。

堀江

それは素晴らしい成果ですね、ありがとうございました。
では、最後に小野さん、よろしくお願いします。

小野俊法氏:日本プロ経営者協会 代表理事、マラトンキャピタルパートナーズ株式会社 代表取締役 共同パートナー(2021年4月現在)の小野です。
私は不動産ファンドでキャリアをさせた後、BIG4のM&Aアドバイザリーなどを経て、10年以上前からPEファンドで中小企業投資に携わってきました。営業利益で1億〜4億円くらいの小規模な案件を中心に投資を行なっているほか、それ未満の規模の案件についても個人で投資しています。私の経験の特徴としては、これまでの投資件数が約40件に上り、起業からイグジットまで多様なパターンを理解しているという点を挙げておきたいと思います。

JPCAレポート

YHC堀江

ここで、日本プロ経営者協会 代表理事の小野から、JPCAレポート「事業承継2.0〜昨今の事業承継問題をプロ経営者で解決する方法〜」と題して、今日の事業承継問題が置かれている状況等についてプレゼンさせていただきます。

小野氏:日本プロ経営者協会は、「プロ経営者を増やして日本を元気に」という想いをもって設立した一般社団法人で、今のところボランティアベースで運営しております。本日は「事業承継2.0〜昨今の事業承継問題をプロ経営者で解決する方法〜」というテーマでお話ししたいと思います。

まずは前提として、「プロ経営者」とは何を意味するのかを明確にしておきたいと思います。ここで語る「プロ経営者」というのは、「企業経営を職業とする人材」です。スティーブ・ジョブスのように、一つの業界に特化して経営を行なったり、自分で創業した会社を日本一、世界一にまで押し上げたりする存在ではなくて、どのような業界の、どのような会社でも運営できるスキルを持った人を「プロ経営者」と呼んでいます。

こうした前提を踏まえた上で、私たちが提唱するプロ経営者の具体像についてお話ししたいと思います。皆さん「プロ経営者」という言葉を聞いたことがあるでしょうし、具体的な名前を思い浮かべる方も少なくないでしょう。しかし、私たちが提唱したいのは、売上数億円〜数十億円の中堅中小企業の事業承継フェーズで求められるプロ経営者です。

なぜ、ここにフォーカスするかといいますと、事業承継に関わるプロ経営者に対するニーズが年々、高まっているからです。日本には中堅中小企業が約40万社存在するといわれています。その中で後継者が決まっていない会社は約26万社。その54%に当たる約14万社は、経営者が60代以上、いいかえれば、この先20年以内に非常に高い確率で引退が見込まれる会社です。また、14万社のうち27%に当たる約4万社では第三者への継承が進み、外部のプロ経営者が仕事を獲得するチャンスがあると予測されています。「約4万社の企業がプロ経営者を求めている」ということです。

その一方で、供給側に目を移すと、30代後半、40代の優秀な人材で、若くしてプロ経営者になりたいと考える人材が増えてきています。その背景としては、日本経済成長率の相対的な停滞により、大企業におけるエグゼクティブポジションが少なくなっていることが挙げられます。自分の上司が50代になっても課長のままという状況が当たり前のように存在する一方、新たな成長企業では若く、高度なスキルを持った人材が要職に就くケースが増えている。こうした背景のもと、プロ経営者というかたちで、若いうちからトップに立って会社をコントロールしたいと考える方が増えているのです。プロ経営者に対する需要も、それに対する供給も潜在的には十分に存在しているといっていいでしょう。

しかし、だからといって、プロ経営者を活用した中堅中小企業の事業承継がスムーズに進んでいるわけではないというのが、難しいところです。その原因としては、事業承継のフェーズにあるオーナー企業とプロ経営者志望者とのマッチングに関して、4つの問題が存在するからだと考えています。4つの問題と申しますのは、①「中小企業の情報の非対称」と呼んでおりますが、どの会社がいい会社で、どの程度利益を出しているかが、外部からは見えない。②個人オーナーの嗜好、好き嫌いによってプロ経営者の処遇が決まる傾向があり、正しいことをしていても嫌われたらクビになってしまう環境が存在する。③代表になることによる銀行の債務保証というリスク。④予算達成ボーナスやストックオプションといったインセンティブ設計がなく、大企業で1500万円くらいの収入を得ているサラリーマンにとっては魅力的に映らないということです。

日本プロ経営者協会ではこうした問題点に着目するとともに、ファンドや人材紹介会社を巻き込みながら解決に導くソリューションを構築しています。具体的には、情報の非対称性やオーナーの嗜好に依存する体質、債務保証、低いインセンティブといった、マッチングを阻害する要因を取り除くことによって、プロ経営者と彼らを必要とする会社のマッチングを成立させるためのプラットフォームをつくり上げています。以上でございます。

withコロナ時代のM&A、事業承継、事業投資マーケットの市況感

YHC堀江

では早速、本題に入っていきたいと思います。まずは導入として、「withコロナ時代のM&A、事業承継、事業投資マーケットの市況感」について聞かせてください。福谷さんからお願いできますでしょうか。

福谷氏:私はアドバイザーという立場から、新型コロナウイルスの感染拡大という危機の歴史的な位置づけについてお話ししたいと思います。私は、今回のコロナ禍を、1990年代のバブル崩壊、2000年前後のドットコムバブル、2008年のリーマンショックに続く4度目の経済危機として捉えています。バブル崩壊とリーマンショックのときは、銀行を中心とする金融関係が大きなダメージを受け、M&Aマーケットを含めた経済的な活動がストップ。日本経済全体が大きな影響を被りました。

一方、今回のコロナ禍では、旅行業や飲食など一部の業界が大きなダメージを受けたものの、金融はそれほど傷んでおりません。感覚としてはドットコムバブルの頃とよく似ていて、“低温相場”が続いている印象です。実際、緊急事態宣言が発令された2020年4月前後は、売り手・買い手ともに引き合いがほとんどなくなりましたが、6月、7月になって、事業承継はもとより、何百億、何千億円規模のM&Aも含めて、さまざまな案件が再び動き出しました。肌感覚としては、コロナ禍以前のレベルへと戻りつつある感じです。

YHC堀江

買い手も売り手も、同じようなペースで戻りつつあるとみていいでしょうか。

福谷氏:ええ。リーマンショックの際は全てガタガタになったという感じでしたからね。まさに“複雑骨折”という感じで、今回のように“低温相場”なんて言っていられる余裕はありませんでした。

YHC堀江

ありがとうございます。市川さんは、どんな風に感じていらっしゃいますか。

市川氏:ものすごく盛り上がっているわけでも、ものすごく盛り下がっているわけでもないというのが正直なところです。ある程度スケジュールされていたような大企業の取引は進んでいる一方で、本業でダメージを受けた会社は「事業承継については、本業を立て直してから考えよう」という方向に向かっています。あとは、コロナ禍によってダメージを受けたので資金調達したい、銀行から借りたけれども減損計上が必至なので資本を調達したいといった、バランスシートの改善や資金調達に関する相談が増えてきた印象です。

YHC堀江

ありがとうございます。ファンドの買収意欲も落ちていないと考えてよいですか。

市川氏:総量としては若干落ちていると思います。去年が10とすると7、8くらいといったところですが、それでもなお十分な需要があります。幸いなことに、弊社の場合、売上が激減した投資先はなく、しっかりとマネージできているので、買収意欲に関しても落ち込みはありません。

事業承継マーケットにおける、プロ経営者に対するニーズ

YHC堀江

二つ目のテーマに移りたいと思います。「昨今の事業承継マーケットにおける、プロ経営者に対するニーズ」について聞かせてください。

市川氏:「マーケティング戦略のフレームワークの一つに「4P(プロダクト、プライス、プレイス、プロモーション)」というコンセプトがありますが、オーナー企業では、オーナー自身が商品を考え、値段を交渉し、プロモーション活動を展開して売っているというケースが少なくありません。まさに「オーナー=4P」なんですね。事業承継では、こうした状況をどのようにして引き継ぐかということが、非常に重要なポイントになります。プロ経営者が不可欠であることは指摘するまでもありませんが、一人で「4P」全てを引き継ぐのは容易ではありません。「この要素はCOOに」「あの要素はCMOに」といったかたちで、各機能を専門的な能力やスキルを持った人材と分担して実践する仕組みを創り上げていくことが大切です。

YHC堀江

プロ経営者のアサイン方法に関して、最近増えてきているパターンはありますか。

市川氏:正確な統計われわれはケースバイケースで考えますので、これといったパターンがあるわけではありません。例えば、2019年に投資を行ったマテリアルグループという会社では、番頭さんに相当するPR事業のヘッドがそのまま社長になったのですが、彼は弱冠31歳。アドバンテッジパートナーズの投資先では史上最年少の社長となりました。管理部門はオーナーさんが持っていったのでCFOを雇うことにしたのですが、入ってもらったのは公認会計士からボストンコンサルティンググループに進んだプロフェッショナルで、これまた弱冠32歳でした。また、成長企業にとってのボトルネックとなるのは人材だということで、採用のマネージャーを探し、半年くらい前に入ってもらいました。この方が素晴らしいパフォーマンスを発揮して、業界の大物クラスも招聘できるようになってきています。このように、PRのエグゼキューション、営業、プランニングの部分は社長とその下のプロパーチームで承継し、グループ全体の経営管理はCFOが担当。人材に関する部分は採用のマネージャーが引き継ぐかたちにしたことで、だんだんと強い組織になってきました。

小野氏:大山さんが経営しているCSS技術開発も、市川さんが挙げた事例に近い印象を持っています。強烈な個性を持ったオーナーによるトップダウン経営から、従業員参加型の経営への転換を進め、成長を実現していますよね。

大山氏:CSS技術開発は小さな会社ですから、最初のうちは私一人でオーナーさんの仕事を引き取りました。ただ、2019年にワキタグループの子会社となってからは、CFOをプロパーで採用したり、人材の採用を愛社精神の強い生え抜きの社員に委譲していったり、測量のプロにマネジメントのことを覚えてもらったりと、従業員参加型・ボトムアップの組織への転換を加速させています。一人の天才がやっていた仕事を再定義して、最適な人材をはめていく感じです。

事業承継におけるプロ経営者活用の成功事例と失敗事例

YHC堀江

次は、「事業承継におけるプロ経営者活用の成功事例と失敗事例」ということでお話を伺いたいと思います。プロ経営者を入れてうまくいった事例と、うまくいかなかった事例には、それぞれどのようなものがありますか。

小野氏:リターンは出たので失敗というほどではないのかもしれませんが、不本意だった案件はありますね。その一つが、投資先のCEOにコストカットが得意なプロ経営者を入れたケースです。手段を選ばずに徹底的にやる方で、人を含めたさまざまな部分のコストを大幅にカットすることで利益を出してはいたものの、私としてはプラスの価値を積み上げることによってリターンをあげてほしかった。これは失敗とも成功ともいえないケースですね。

YHC堀江

市川さんは如何でしょうか。

市川氏:私も失敗というほどではありませんが、期待した成果をなかなか出すことができなかった事例はありますね。事業承継と事業再生を同時に進めなくてはならない非常に難しい案件で、本来であればその場その場で考え、即実行。うまくいったらすぐ全社展開というような感じの、猛烈なスピード感を持った経営者が求められていた状況でした。
ところが、中間管理職からの報告を受けて改善策を慎重に考えた上で実行、1カ月後にフィードバックをもらって改善というような、業界経験を重視した常識的なスタイルのプロ経営者を採用した。その結果、会社を大きく変えることは叶わず、事業再生はやり切れませんでした。その後、スピード感を持ったプロ経営者に交代したことで、事業再生もうまくいきました。

YHC堀江

プロ経営者といっても、一定の人的リソースのある中で成果を出すのは得意だが、ゼロからイチを創るのは不得意といった具合に、一人ひとり違いがあるということですね。

福谷氏:そうですね。何を成功とみて、何を失敗とみるかも立場によって違うとは思うのですが、あるファンドさんの10年以上前の事例についてお話ししたいと思います。
典型的なオーナー企業をファンドさんに買ってもらったときのことです。いまは隆々としていて有名なファンドさんなのですが、当時は設立直後ということもあり、ノウハウや経験値が不足していたのだと思います。新たな経営者を商社から呼んできたのですが完全に失敗し、売上高200億円の会社が清算に追い込まれたんです。

失敗の要因は、ミッシングピースを埋めるべく理詰めで考えてプロ経営者を派遣したものの、その会社独自の商流やビジネスモデル、業界特有の商慣習を理解できていなかったことでした。PMIは理詰めだけではうまくいかない部分があります。どのような業界・会社の出身で、過去にどのような仕事を手掛けてきたか、大企業のみならず、その関係会社で泥まみれになった経験があるのかないのか、その人の本人の資質や経験、バックグラウンド、そして投資先とのケミストリーなどを考慮する必要があるんですね。

それから、私の銀行員時代の同僚で、中小企業に派遣されて経営に携わるものの、オーナー経営者と合わずに行ったり来たりを繰り返していた人がいました。銀行から派遣される人材がいかに優秀でも、何から何まで一人でやらなければいけないような中小企業では、ミスマッチが生じるケースが少なくないということです。本日、ここに登壇されている皆さんは、こうした次元はすでに卒業されており、非常に頼もしく感じますが、こうしたかたちのミスマッチが起きる可能性があるということは頭に入れておくべきだと思います。

YHC堀江

プロ経営者はもとより、彼らを派遣する側の能力も試されるということですね。ありがとうございます。

事業承継マーケットで求められるプロ経営者はどのような人物か?

YHC堀江

続いてのテーマは「事業承継マーケットで求められるプロ経営者はどのような人物か?」です。大山さん、如何でしょうか。

大山氏:これまでの自分の経験で感じたことをお話ししたいと思います。私はオーナー企業の経営を承継したわけですが、これまで会社を引っ張ってきたオーナー経営者は“ワンマン”と言われていました。ただ、私からみたオーナー経営者は、誰よりもその会社が好きで、ビジネスが好き。創業者は社員の何倍も気持ちがこもっているのが当たり前で、その溢れる思いを周りが受け止めきれないから、ワンマンと言われてしまっていたわけですね。
そこで私は、創業者の思いを“翻訳”することを意識しました。「みんな社長の文句を言うけど、社長の言いたいことはみんなが思っていることと実は一緒だよね」「この会社のこういうところ好きなんだよね」といった具合に共通点を見つけ、社員の皆さんが理解しやすい言葉で発信するように心掛けたんですね。ある意味ではオーナーさんの味方でもあるし、従業員の味方でもある。どちらを向いて話すのかといったことや、話し方についても、ものすごく気を遣いましたね。

YHC堀江

なるほど。持ち前のコミュニケーション能力を発揮して、オーナー経営者と従業員を繋いでいくことを意識されたのですね。大山さんのような方ばかりですと良いですが、いろんな人材がいる中でプロ経営者の能力や資質を見抜くのは、容易なことではないと思います。
プロ経営者を送り込む側のファンドさんは、どのようにして能力や資質を見抜かれるのでしょうか。

市川氏:いかにして適切なプロ経営者を見抜くか。そして、その精度を高めていくか。これは、ファンドの競争力強化における最大のポイントの一つですね。さまざまな失敗から学びながら、選定の仕組みをつくりあげてきた結果、百発百中というわけではありませんが、大失敗はかなり減ってきています。まず、大切なのは第一印象の良さに左右されすぎてはいけないということです。社内では“R-1グランプリ症候群”と呼んでいますが、あるピン芸人が本当に面白いかどうかは、一個のネタを見ただけではわからない。しかし、毎回審査員が変わると、面白いネタが一つ、二つしかなくても勝ってしまう可能性があるんですね。

プロ経営者の面接も同様です。当社の場合、ジュニア、ミドル、シニアという順で、面接を行っていくわけですが、ともすると第一印象やプレゼンの良さだけで選考をパスしまう可能性もあります。こうしたことを防ぎ、当社にとって必要な人材を採用する仕組みをつくるため、日々、さまざまなデータを突き合わせながら、議論を積み重ねています。

YHC堀江

小野さんは如何ですか。

小野氏:中小企業の事業承継はトップダウンの経営者には難しいと思います。現場から総スカンを食らって、組織が崩壊してしまう可能性があるからです。私がプロ経営者に求めたいのは、まずは、現場の従業員としっかりとコミュニケーションを取る力、現場の従業員の信頼を集め、彼らを引っ張っていく力です。この部分は面接でもしっかり見るようにしています。

福谷氏:プロ経営者には「情」と「理」の両方が必要だということではないでしょうか。大山さんのおっしゃるように、インタープリターあるいはトランスレーターとして、オーナー経営者と従業員との間をつなぐには、「情」がないといけません。その一方で、ファンドで仕事をしている市川さんからすれば、数字に弱いプロ経営者は話にならないと思います。だから、多少のバランスの違いはあるでしょうが、「情」と「理」、いいかえればEQとIQを高いレベルで兼ね備えている必要がありますね。

市川氏:おっしゃる通りだと思います。数字ドリブン、目標ドリブンで考える癖がないとリーダーとしてフワフワっとしてしまいます。一方で、それだけでは自分の思いを現場に伝えることはできません。リーダーの仕事はスケールさせることですが、従業員がついてこなければ広がりは望めません。ですから「情」と「理」の両面を兼ね備えていることが不可欠なんです。業界の知識はあるに越したことはありませんが、「情」と「理」という本質的な部分を備えているかどうかが決定的に重要です。

どのようにCEOポジションを探すか?

YHC堀江

続いて「プロ経営者を目指す方は、どのようにCEOポジションを探せばよいか?」というテーマでお願いできればと思います。
大山さんはどのようにして現在のポジションを見つけられたのでしょうか。

大山氏:私はあまり参考にならないと思います。友人の紹介と言いますか、小野さんに声を掛けられたという感じですから。

小野氏:CSS技術開発のオーナーさんは「いいプロ経営者を連れてきたら、承継を考える」というスタンスでした。まだ案件になっていない段階で、プロ経営者候補の方に長時間の面談に参加してもらわなくてはいけないので、なかなか厳しいと思っていたのですが、そんな折に、大山さんがFacebookページで「独立してプロ経営者になりたいと思う」という趣旨の書き込みをされているのを見たんです。連絡を取ってみたら、大山さんも乗ってくれたという感じですね。

YHC堀江

一般的には、人材紹介会社を経由するか、ファンドさんが自分のネットワークの中で探すかといった感じでしょうね。ところで、年間でどれくらいの募集ポジションがあるのでしょうか。

市川氏:日本にはプロ経営者が何人いるのかということでフェルミ推定をしたことがありますが、そんなに多くなかったですね。1000人から2000人のオーダーだったと思います。この人たちが何年かに一度ポジションを変えているとすると、年間で転職するのは300人〜400人程度でしょう。

YHC堀江

それくらいの規模感なんですね。ファンドさんはプロ経営者を探す時に、どのような探し方をされているのでしょうか。

市川氏:最近はエージェントさんにご紹介いただくケースが圧倒的に多いです。ただ、もともとコンタクトがあって、その案件にジャストフィットする人がいれば、こちらの方が優先順位としては高いですね。

YHC堀江

小野さんは如何でしょう。

小野氏:私もエージェントさんにお願いすることが多いのですが、一般的には2度の面接で全てを決めなければいけないので、できれば知っている人にお願いしたいというのが正直なところです。その意味でも、日本プロ経営者協会を含めて、多くのプロ経営者候補と知り合い、性格や得意分野を把握する場の存在が重要です。「いいプロ経営者を連れてきたら、承継を考える」というケースにも対応できますからね。

YHC堀江

福谷さんは如何でしょうか。

福谷氏:必ずしも事業承継に関するものではありませんが、名だたる企業のトップを務めている友人が何人かいます。例えば、自ら起業した会社を早い時期に売った後、“わらしべ長者”のように、複数のグローバル企業の執行役員や副社長、社長を務めた友人、それから、銀行の同期でコンサルタントに転身した後、大手専門商社やホームセンター大手のトップを務めている友人ですね。彼らは最初から現在のポジションに就くことを考えていたわけではなく、目の前にある仕事に対して一生懸命取り組んできた。その努力が実ったからこそ、一流のプロ経営者として活躍できているのだと思います。

本来キャリアというものは後ろを振り返った時にできているもので、理想のキャリアを追い掛けたところで、あまり意味がないような気もします。先ほどご紹介した私の友人のように、スタートはさまざまですが、与えられた持ち場で最高の仕事をし続けた結果、最終的に一部上場企業のトップにまで登り詰めた友人が何人もいます。こうしたキャリアのつくり方もあることを覚えておいていただきたいと思います。

YHC堀江

ありがとうございます。まずは目の前の業務に集中して、成果を出し続けるということが大切だということですね。魅力的なポジションに出会うには、何らかのコミュニティに所属することも必要でしょうか。

齋藤氏:われわれの世代でいうとMBAホルダーのコミュニティがありました。今の若い世代であれば、SNSのコミュニティに参加されていらっしゃる方も少なくないでしょう。こうしたコミュニティで、いろいろな人と知り合いになっておくことも大切かもしれません。ただし、何とかしてビジネスチャンスを見つけてやろうというようなガツガツした姿勢ではなく、自然体でのお付き合いを通して、人間性が伝わっていくような関係をつくることが基本だと思います。

大山氏:本当にそう思います。私自身も、こういうお仕事をさせていただけることになるとは思ってもみませんでした。チャンスと出会えるかどうかは、偶然にも左右されるものなので何ともいえませんが、面白いものだなと思います。

事業を承継した後に直面した最も印象深いトラブルは?

YHC堀江

次は「事業を承継した後に直面した最も印象深いトラブルは?」というテーマです。先ほどの失敗事例に続くところがあるかもしれませんが、大山さん、何かありますか?

大山氏:ちょっと軽めの話をしてみたいと思います。CSS技術開発では、海外への社員旅行が恒例行事となっていて、オーナーさんの自慢でもあったのですが、私が社長になったのを機に、「今後も社員旅行に行きたいか」という趣旨で、アンケートを取ってみたんです。そうしたら「今後も社員旅行に行きたい」と答えた社員は20人しかいなかった。オーナーの気持ちが強すぎて、皆さん、本音が言えなかったんですね。このことをオーナーさんに伝えたところ、「こんなアンケートはウソだと。俺はしんじないぞ」ということになり、アンケートを取り直すことになったのですが、結果は変わりませんでした。事業承継の前後でオーナーさんと言い争いになったのは、このときだけですが、創業者から見た会社と、従業員から見たい会社というのは、こんなに違うもなのかと。あらためて驚かされました。

福谷氏:事業承継案件をよく手掛けていた頃の思い出話をしたいと思います。当時、私が担当していたオーナー経営者の中には、戦争を生き延びて、戦後、裸一貫で会社を立ち上げ、80歳、90歳になるまでずっと頑張り続けてきた方が少なくありませんでした。彼らはなぜ、そこまで頑張ることができたのか。人によって理由はさまざまだと思いますが、“英雄色を好む”といいますか、婚外子のことを考えると死ぬに死ねないという方も少なからずいらっしゃいました。会社を無事譲渡して、婚外子やお世話になった人々に生前贈与みたいなかたちでお金を配り終えると、緊張の糸がぷっつり切れてしまうのか、昨日まで元気だった人が亡くなったりする。トラブルではありませんが、こうした事例も結構ありましたね。こうした時代に比べると、今日はとても明るい事業承継の話だなという印象です。

市川氏:トラブルという点では、非常に優秀なプロ経営者に、事業承継の案件に入ってもらったときのことが印象深いですね。素晴らしいパフォーマンスを上げていただいていたのですが、社運をかけたプロジェクトを始めた後に、ハラスメントを起こして退社を余儀なくされたというケースがありました。

ポストコロナで事業承継&プロ経営者マーケットはどのように変化するか?

YHC堀江

最後のテーマに移りたいと思います。「ポストコロナで事業承継&プロ経営者マーケットはどのように変化するか?」というテーマなのですが、如何でしょうか。

市川氏:コロナ禍によって先行きを見通すことができなくなり、気持ちが続かずに承継を決断するケースはあるでしょうが、事業承継マーケット全体が大きく変わることはないと思います。これまで同様に案件数が伸び続けていくのは間違いありません。

事業承継に対するニーズが伸びている背景には、少子高齢化という社会的な構造の問題があります。家業を継ぐ子どもの数は減ってますし、継げる子どもが居たとしても地方のオーナー経営者は、熱心に教育投資を行う傾向にあります。子どもが期待に応えて、東京の良い大学に進学するところまではよいのですが、そのまま東京の大企業に就職してしまうと、家業を継いでもらえなくなってしまう。だからといって、教育投資を絞るのも合理的な選択とはいえない――。事業承継に対するニーズの拡大は、ある意味で、東京中心に教育や産業が発展してきた日本の近代が抱えるジレンマの帰結なんですね。構造の問題だけに、この傾向が変わることはしばらくないでしょう。

また、プロ経営者が選ばれるチャンスも、今後ますます増えていくと思います。儲かっている会社の株式価値は高くなります。営業利益10億円の会社なら100億円くらいの価値がつきますので、番頭さんが100億円をポケットマネーで買うわけにもいきませんからね。

福谷氏:今日のお話を聞いていて、世の中の動きと皆さんの動きが一致しつつあるということを実感しました。以前は、外部の人材に経営を任せるということ自体、一般的ではありませんでした。しかも、敗者復活のチャンスはなく、失敗は絶対に許されないという環境でしたから、プロ経営者になろうという人は、文字通り、死ぬ気で取り組まなければなりませんでした。一方、最近は、軽い気持ちでというと語弊があるかもしれませんが、さまざまなバックグラウンドをお持ちの方が、プロ経営者に積極果敢に挑戦できるようになってきた。このパネルディスカッションのように、とてもオープンな雰囲気で意見を交換できることを含めて、とても素晴らしいことだと思います。

プロ経営者か、PEファンドのサラリーマンか

YHC堀江

ここからはQ&Aに入っていきたいと思います。 「現在30代前半ですが、IBDからPEファンドを経て、中小企業の社長を1年経験しました。現場のリアルを肌で感じ、やりがいを感じるとともに、相当な負荷を感じました。率直にお伝えすると、プロ経営者よりもPEファンドのサラリーマンの方が心理的負担も軽く、経済メリットも大きいと感じます。上記のポジションの過酷さと、経済的メリットをどのように感じていらっしゃるか。ファンド、プロ経営者として働いている皆さんにお伺いしたいです」というご質問をいただいています。

大山氏:PEファンドからプロ経営者の道に進んだ私から答えさせていただきたいと思います。収入に関しては、ファンドにいてパフォーマンスが上がった時の方が良かったということもありますが、充実感は今の方が大きいですね。現場のリアルな課題を従業員と一緒に解決していくのは楽しいし、やりがいがありますからね。

小野氏:プロ経営者の収入に関しては、質問者の方のように考えていらっしゃる方が少なくないと思います。私としましては、プロ経営者が、より多くの報酬を得ることができるよう、ストックオプションを含めたインセンティブ設計を行っていきたいと考えています。

市川氏:プレッシャーという点では、数字や従業員に直接向き合っている経営者の方が強いと思います。一方、経済的なメリットも大きく、上場している投資先の公開情報をご覧頂ければ、相当量のストックオプションや株式報酬を獲得されている事が分かると思います。ただ、この辺の分配ポリシーはファンドや投資先のサイズによって異なるかもしれません。あと、例えばメガネスーパーの星崎社長の様に、再生を果たした上場企業の社長として「カンブリア宮殿」に出演するなど著名になられるケースもありました。

大山氏:やりきった先にあるフロンティアみたいなものは実感できますよね。

YHC堀江

ありがとうございます。プロ経営者の年収やストックオプションがどの程度のものなのか、具体的なイメージを描きづらいという方も少なくないと思います。ファンドの投資先の社長のポジションの年収はどれくらいでしょう。規模によって違いはありますが、スモールキャップですとベースで1500万円〜2000万円というイメージでしょうか。

市川氏:ミッドキャップの投資先の社長でしたら年収3000~4000万円代も有り得ますね。ストックオプションはリターン次第ですが、当社の場合、そこそこうまくいった場合で数億円という感じになっています。CXOだとそれより低くなります。いずれにしてもファンドの実務担当者よりはいいと思いますね。そうじゃないとおかしいと思いますし。

事業承継の案件はどれくらいあるのか

YHC堀江

「3社に2社は後継者がいないといわれる中で、大手M&A仲介会社の件数を見ると、年間約1000件といわれています。事業譲渡の件数がニーズに比べて少ないと思うのですが、何がネックになっているのでしょうか」というご質問をいただいています。

福谷氏:データとしてまとめられているのは、表に出ている案件だけだと思います。非常に小規模な案件や、取引先が引き取るといったケースは表には出てきません。肌感覚としては、世の中に出ている数字の5倍くらいの件数はあるのではないでしょうか。

小野氏:おっしゃる通りだと思います。市川さんの手掛けられるような案件はほぼキャッチしているとは思いますが、私が個人で手掛けた案件はキャッチしようもありませんからね。

YHC堀江

小野さんが主に手掛けられている、スモールよりも小さいマイクロな案件は、どのようにして見つけられているのでしょうか。

小野氏:もっぱら紹介です。積極的に動いていると、1日に10件くらいの紹介をいただくこともあります。年間で3000件程度ですかね。私のところに3000件の紹介がきているわけですから、実際の案件数は公表されている数字の数倍は下らないでしょう。

プロ経営者を再生産する仕組みをつくる

大山氏:おそらく今日のセッションの裏テーマは、プロ経営者にチャレンジしたい人の裾野を広げようということだと思います。皆さんもご存知のような、世界に名だたるプロ経営者は意図的に育てられるものではありません。でも、経営を勉強して、家業をしっかりと継ぐことのできる人は再生産できるし、やらなければいけないと思うんです。失敗しにくく、かつ、そこそこの成果を出すことができる“ローリスク・ミドルリターン”のポジションを設計し、キャリアの延長線上でチャレンジできる機会をつくりこんでいく必要があると思いますね。

小野氏:プロ経営者をやっている友人がいるのですが、アップサイドもあって、大きなチャンスもあるということで、“ミドルリスク・ミドルリターン”であることを気に入っているようです。ストックオプションなどエクイティの部分をうまく使うことで、優秀な人が驚くべき業績を上げられる仕組み、投資家にとっても驚くようなリターンを上げられるような仕組みをつくっていくことが大切だと思います。

YHC堀江

人の流れを加速させるには、どうすればいいのでしょう。

市川氏:スモール、ミッドの事業承継案件に、30代、40代の若い経営者を登用し、経験を積んでもらうことが大切だと思います。こうした取り組みを5年、10年続けていくうちに優秀なプロ経営者がストックされ、ロールモデルもできてくるはずです。こうした流れができれば、大企業におけるプロ経営者候補の裾野も自然と広がっていくのではないでしょうか。

堀江

プロ経営者候補者の中には、コンサル出身者やFAS出身者、ファンド出身者など、いろいろな方がいらっしゃると思いますが、プロ経営者になったときの成功確度が高いのはどのような方でしょうか。

福谷氏:属性はともかくとして、思い通りにならない状況に何度も直面しながら、あるいは、大小さまざまな失敗を経験しながら、数々の苦境を乗り越えてきた人の方が、プロ経営者に向いていますし、伸びしろも大きいと思います。現場では想定外のことが毎日のように起こります。思い通りに動かないことがたくさんあるということを理解し、想定外の事態にしなやかに対応するには、数多くの失敗の経験が必要なんです。プロ経営者になろうという方には、自らの失敗の経験について自問自答していただきたい。「失敗したことがない」という方は正直どうかなと思います。

堀江

ありがとうございます。本日はここで締めたいと思います。登壇者の皆さん、視聴者の皆さん、本日はありがとうございました。

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